以前、それぞれの実家へご挨拶に行ったときに兄が話してくれた。
私が結婚式を挙げることを知った次男坊が真っ先にこう言ったと。
「俺、リングボーイやる!」
お前、19歳だろうが。
一瞬呆れたが、確かにお調子者で面白い男なのである。昔からいい歳をして独身の私に、会う度に「兄弟の中で結婚してない人って誰~?」とか、「まだ子供のおらん人って誰~?」などと神経を逆撫ですることをいつも言っていた(根に持っている)
さすがに中学生にもなってそういうことを言っていたので、事情があって子供を望めない女性はどこにでもいる。お前の言葉はそういう人を傷つける可能性がある、ということを兄から伝えてもらった。
尊敬する父親に諭されたからか、それ以降は私に対してはおとなしくなったが、同世代の子には相変わらずのようだ。困った奴である。
幾つになっても生意気で子憎たらしいのだが、生まれた頃から知っているので奴の恥ずかしい思い出も私は掴んでいる。まぁお互い様だ。
虹夫さんは結婚指輪は無いものと思っているので、次男坊君の意欲は空回ることになるけれど。
さて、前回の打ち合わせからは少し間が空いてしまったが4月中旬、遅れを取り戻すように一気に複数の案件を詰めた。
まずはムービー。
記録撮影は断った。式の最中にお友達がたくさん写真を撮ってくれるだろうし、後日それを貰えば良いだろうとの虹夫さんの判断。勿論私もそれに異論はない。
ただしエンドロールは依頼した。挙式の一日をダイジェストで映像化してもらい、披露宴の最後に上映する。
姉の結婚式で初めて見たのだけど、これは意外と出席している側も嬉しい演出。
ただし、ひとつだけ苦い思い出が。
最後の最後に、ゲストの名前もクレジットされて、そこに姉妹の中で私だけ名前が変わっていないことに会場の空気が一瞬気まずくなったのだ。
あれは居た堪れない……。
ということで、今回のエンドロールにはゲストのお名前は入れないことにした。
BGMはこちらの希望の曲を使用してくれるそうだが、演奏時間が長い方がそれだけ長い映像に出来るのでお勧めらしい。
入場時のムービーは作るか外注するかで、持ち込みすることにした。
生い立ちムービーは私たちの写真をそれぞれ規定枚数持ち寄り、BGMは製作者さんにお任せ。
次は進行についての打ち合わせ。
受付やスピーチをしてくれるゲストの確認をして、ざっくりと進行内容の説明を受ける。
その中で、指輪の交換についての話になった。
「リングボーイしていって子がいるんやろ?」と、軽く自ら振ってくる虹夫さん。あれ? 指輪は無かったのでは? と思いながらも、取り敢えず「そうなんですよー」とプランナーさんに甥っ子のことを話す。プランナーさんは「素敵!」と乗ってくれたけれど、あれれ? 指輪は無いのよね……。
内心、かなり混乱する私。
続いて場所を変えて、衣装の打ち合わせ。
この日はウェディングドレスとカクテルドレスを決めた。
私の憧れは、映画『サウンドオブミュージック』のマリアのウェディングドレス。
ジュリーアンドリュース演じるスレンダーなマリア。ほっそりと長い首から華奢な手首まで、全身をすっぽりと包み込むシンプルながらエレガントなドレスは幼心に私はうっとりしたものだ。
昭和時代も、ウェディングドレスと言えば手首までの長い袖のドレスが主流だったと思うのだが、最近はデコルテから二の腕まで露わなデザインばかり。
それもまた素敵ではあるが、何より私はアラフィフ世代。そんなもん晒せるかぁ!
しかし、無料プランで着られるドレスには、どれも袖すら付いていない。
私が困っていると、衣装部の方がレースのインナーブラウスを提案してくれた。肌を僅かに隠す程度の透け感ではあるけれど、私の羞恥心を覆ってくれるには充分だった。
そのインナーブラウスと、トレーンが長く刺繍などの少ないデザインのドレスを選んだ。
やはりシンプルなのが良い。これがもう20歳も若ければ、もっとフリフリなキュートなドレスを選んだかもしれないが。
ただし、そのドレスは無料プラン内では無く2万円ほどの手出しになってしまったが。
そして、インナーブラウスもオプションなので更に1万円の追加。
インナーブラウスだけで言えば、8000円以内で通販サイトに私好みの商品も見つけたのではあるが、おそらく今後着まわすことのない商品に8000円も掛けるのか。それならば、今回限りの1万円で収まるなら、それで良い。
と、虹夫さんに諭された。おっしゃるとおりです。
カクテルドレスについては、虹夫さんのワインレッドのドレスが可愛らしくて一先ず決定となった。
「一先ず」というのは、まだ本番でカクテルドレスを着るかどうかを迷っていたから。
以前、互助会のプランで衣装はウェディングドレスと色打掛が無料になると書いた。カクテルドレスは対象外だ。
ただし色打掛をカクテルドレスに変更することは可能とのこと。そうすれば、虹夫さんはタキシードのみでお色直しの必要はない。せいぜいネクタイを変えるとかすれば良いらしい。
でもでも、せっかくだから和装も着てみたい。お友達からも、和装の私を見たいと期待を寄せてくれている人がいる。
ならば前撮りだけ和装をプラスして、本番では洋装2点というのはどうか? それなら前撮りのみ価格というのがあって料金を少しばかり抑えられる。
取り敢えずの見積もりを出してもらい、この日の打ち合わせは終了。
次回で和装の衣装も合わせてみてから決断することにした。
その日は両家の母の留袖も合わせることになった。
帰りに私は、ずっと引っ掛かっていたことを虹夫さんにぶつけた。
「指輪の交換について普通に話していたけど、指輪はあるの?」
「準備します」
えぇぇぇぇっ?!
以前、虹夫さんのお友達のお店で結婚指輪は有りか無しやで揉めた際、私は酔っ払って「虹夫さんは私の言うことならなんでも聞いてくれる」と大変厚かましいことを口走ってしまった。
それが虹夫さんを責める形になってしまっていたらどうしよう。
だけど、その後本当に虹夫さんはわざわさ指輪のサイズは測るツールを購入し、お互いの指のサイズか確認して慎重に慎重を重ねて指輪を準備してくれた。
お互いにブランド品というものには興味がないので、どこのメーカーなのかすら分からない。だけど、とてもシンプルで綺麗で、可愛らしかった。
男性のリングには珍しいかもしれないが、どちらにも誕生石が付いている。偶然にもお互いに青色系の石なので、一見同じ石に見えるのはご愛嬌。
私の指、身長の低さの割にはかなり太いので恥ずかしいのだけれど、虹夫さんの指輪と並べたらちゃんと女性的なサイズに見えたのもご愛嬌。
女性にとって、婚約指輪や結婚指輪はこだわり抜きたいという方も多いと思う。
だけど私は、虹夫さんが私とのことを考えてあちこちのサイトをチェックして、時間を掛けて吟味を重ねて準備してくれた指輪がどんな高級ブランドの品よりも素敵に見えるのです。
惚気でしょうか? そうです、全力で惚気ています。
派手さは無くても、こんな幸せがあっても良いと思ています。