無事に婚姻届を受理され、帰宅。
午後になり、兄の運転で母と式場入りする。
ウェルカムスペースは前日に確認しているので、控室で少し母と話す。
別段、「お世話になりました」的な会話もなく時間になり、案内されるままにお支度に入る。
ヘアメイクをしてもらいながら妹たちに控室やロビーの様子を尋ねてみると、予想外に早い時間から皆さんお集まりくださっている様子。
展示している珍しいお酒の瓶に、飲み仲間が群がっていたらしいのは予想済み。殆どのお酒は空き瓶だけれど、一部閉じてしまった酒蔵の未開栓の商品も記念に並べていたので、のちの披露宴で「それも開けようよ!」という仲間の興奮を収めるのが大変だった。
やがてベールダウンやリングボーイのリハーサルが終わったということで私と虹夫さんとの大聖堂でのファーストミート。もう散々衣装合わせや前撮りでお互いを見ているので新鮮さは無く、見つめ合ったまま言葉に困るふたり。
この辺りに、アラフィフの初々しさを失った悲哀を感じる。
一旦大聖堂前にある隠し部屋で待機し、入れ替わるように親族紹介が行われる。
続いてゲストの皆さまが大聖堂に案内され、いよいよ扉の前でスタンバイ。まずは虹夫さんがひとりで入場。暖かい拍手に迎えられて、ゆっくりと確実に歩いて行く虹夫さん。扉の隙間からその様子を見守りつつ、自分の入場が不安でならない。
だって、練習まったく上手くいってないのだもの。
所定の位置についた虹夫さんに続き、私が入場。
一歩、二歩、三歩目に案の定ドレスの裾を踏む。なんとか入ってすぐの母のもとへ着くと、ベールダウンを受ける。気が急いていて、母の助けを受ける前に頭を起こしてしまう。
そして、ここからが地獄だった。
決して長くはないバージンロードが永遠に続く茨の道に感じるほど、果てしなく感じた。
裾が! ドレスの裾が私の歩みを妨げてくる!
もはや一歩ごとに躓く有り様。途中からかなり裾を持ち上げて歩くものの、歩くことに集中するあまり立ち止まる位置を取り過ぎて慌てて歩を止める。
虹夫さんの迎えを受けるのだが、腕を組む手順がすっ飛ぶ虹夫さん。もうわちゃわちゃである。
なんとか壇上に上がり、司会のさっしーさんの進行でどうにかこうにか式は進む。
私の考えた誓約の言葉を述べ、指輪の交換。
ここでリングボーイの私の甥が登場。
ゲストの皆さんはどんな可愛らしい男の子が出てくるのかと、カメラを低いアングルで構える。
扉が開くと、そこにいるのは19歳の若者。結構ないい大人が現れて困惑が広がる大聖堂。
甥はなにか面白いことをしてくれるかと期待していたが、慎重にしっかりをこちらに向かって歩みを進め、丁寧にリングピローを虹夫さんに手渡した。
なんだよ、ターンのひとつも決めてくれるかと思ったのに。という拍子抜けはあったけれど、あの生意気盛りだった男の子が、こんなにも紳士的に成長していて内心感動もしていた。
さて、事前のリハーサルでは指輪をうまく持てずにオロオロした私だけれど、本番ではなんとか様になったと思う。因みにその指輪はパソコンを叩いている今も着けているけれど、なんだかまだ慣れなくてムズムズ感がある。
ベールアップをして、遂に近いのキスまできた。
こんなおっさんとおばさんのキスとか見て嬉しいか? と拒否反応があったものの、虹夫さんは当たり前にするものだと思っていたそうなので覚悟を決めた私。
事前に新婦の顔がゲストに見えやすいように、首の角度などをアドバイスされいた虹夫さんだけれど、なんとそこでもすっ飛んだらしく、右腕を高く掲げて私の頭を掴みにかかった。
えぇ? なに? なんで頭を押さえにくるの?
驚いて激しく動揺する私。私をゲストによく見えるように、私の頭の位置を調整しようとする虹夫さん。
「頭? え、頭?」と思わず逃げようと大きな手から頭をかわす私。
爆笑するゲスト。
もうどうしたらいいのか考えるのを諦めた虹夫さんは、最終的に右手で私の顔をロックしてブチュー。
なんじゃこの誓いのキスは! 完全にツボにはまった私。キスが終わった後も笑いが堪え切れず、ゲストに向かって恥ずかしげもなく声を上げて爆笑。それ見てゲストも更に爆笑。
ゲストに指輪やサインをした誓約書を披露して、承認の拍手を受け、さっしーさんの結婚成立宣言を受けて式は終了。
そして、退場という地獄の再来。
散々また躓きつつ、でも今度は虹夫さんにもさりげなくドレスをつまんで持ち上げてもらいながら、なんとか最後のお辞儀まで終えることが出来たのだった。
長かった……。
次回、フラワーシャワーを受けながらの階段落ちという恐怖と戦う、ブーケトスの死闘編へと続く。