本日より、13話にわたって彼氏ことレインボー氏とのエピソードを紹介いたします。
すでにこのブログでも公開した内容も含まれていますが、おそらく皆さま初めてご覧いただいてると思いますので、構わずに書き進めていこうと思います。
それではどうぞーっ!
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彼氏いない歴=年齢のままアラフィフとなった私に、突如として恋人が出来てしまった。
青天の霹靂というか、今更である。もうこのまま一生ひとりだと思っていた。しがない派遣社員で、貯蓄も満足に無い。老後など絶望しかないが、それでも息が出来るうちはどうにかしなければならないとも思っていた。それを自分ひとりでなんとかせねば、と。
相手は同い年の会社員。飲みのイベントで知りあった。顔は印象的だったのですぐに存在は覚えたが、名前までは覚えようと意識すらしていなかった。その後何度かボーリングなどのレクリエーションでも顔を合わせるようになり、知りあって1年くらい経ったころだったか、お友達のひとりが経営する餃子屋へ行こうと誘われた。
思えばこれが初デートということになるのだろうか。何故言い切れないかと言うと、本当に餃子を食べただけで終わったから。
いつの間にかSNSでお友達として繋がって、DMで偶にやり取りし、ある日ふと餃子屋に誘われたわけだけど、その時点で私は異性というものを大変警戒していた。その餃子屋へは行きたいけれど、この人を信用していいのだろうか。そもそも何故私を誘うのか。
いやいや、若いお嬢さんならまだしも、私のようなアラフィフにどうこうしようなんて男性はいないだろう。本当にお友達として、私がそこの餃子を食べたことが無いと言っていたのを覚えていて、自分も食べに行くついでに誘ってくれたんだろう。うん、そうだろう。
警戒心の強い私は、待ち合わせ場所に近所のスーパーの屋上を指定した。
その屋上は、その後も何度となく私たちの待ち合わせ場所になった。
それから約2年半、ひょんなことから私たちは付き合うことになった。
長く掛かったけれど、その頃には私もようやく彼の気持ちに薄々気が付き始め、でも明確な意思
表示をしてくれるわけでもなく、もやもやしていた。そんな夏の終わり、やっと彼ははっきりを気持ちを伝えてくれた。
実は周囲のお友達は、餃子デートの段階から既に彼が私に好意を寄せていることに気付いていたらしい。だが大変鈍感であるらしい私は、本気で気が付いていなかった。それに対し、のちにお友達のひとりから「ポンコツ」の称号を贈られたくらいだ。それほど、彼の態度は見る人にとってバレバレだったそうだ。
恋愛経験のない私でも、この歳で片想い2年半は長いと分かる。それだけの間、一途に想ってくれていたことが心の底から嬉しかった。だから、恋愛ってどうやるんだか分からないけれど(ここ強調)、彼の気持ちに応えたいと思い、受け入れた。
さて、ここまで長々と書いたが、これからが私と、私との闘いが始まる。
まず、彼のことはここからは便宜上『レインボー氏』と表記する。
そして私の部屋は、『汚部屋』である。それはそれは見事なのだ。
テレビや動画配信で紹介するには少々パンチが弱いが、それでも足の踏み場はほぼ無い。食事をするスペースと寝る場所さえ確保されていれば良かった(と、思っていた)
それがそうもいかなくなったのは、レインボー氏という存在が現れたから。お友達からの、「早くレインボー氏を部屋に呼んでやれ」の圧が凄まじいのだ。レインボー氏は実家暮らしなので、余計に私へと一方的にお部屋デート開催の圧が掛かるのである。
最初は軽く「散らかってるから~」と誤魔化していたが、それも苦しくなり、レインボー氏にだけ打ち明けるつもりで「実は汚部屋で……」と伝えたら、数日後には「なんで妙春ちゃん、彼氏を部屋に呼んでやらんの?」「汚部屋なんだって~」という会話がお友達の間で交わされるようになっていた。
なんということだ。口止めをしなかった私が悪いのだろうか。
そういったわけで、長年積み重ねてきた不用品の山を切り崩し始めることを決めた私。現在のアパートで暮らし始めて22年になる。すっかり住人の最古参になってしまった。
物が積み上げられていただけの折り畳み式デスクと椅子をしまい、思い切ってベッドの向きを変えた。これで本棚を置くスペースが取れる算段だった。物が減れば、だが。
私の部屋は本を始め、とにかく紙類が多い。なんというか、全体がわしゃわしゃしている。何故か古いレシートの束などもある。家計簿を付けようと残しておいたものの、結局手付かずで数年経っているものが多い。つまり、大変だらしがないのだ。汚部屋になるのも頷ける。そして、どこから手を付ければ良いのかまったく見当もつかない。
そんな私に、レインボー氏が恐ろしいことを言ってきた。
「どれだけの汚部屋か見てみたい」
本気? ご冗談でしょ。後悔しても知らないよ? 覚悟はいいな?
数日後、デートの帰りに車の中で切り出した。
「部屋を見ていく?」と。
レインボー氏は、いや~今日はいいや、などと返してきたが、こちらはもうこの人になら見せてもいいや! という気持ちになっている。これまでお友達時代にも散々泥酔したみっともない姿も見られているので、今更この部屋を見られても構わんかな、と。というか、寧ろ見てもらいたいと思うようになっていた。現状の酷さを見てもらい、これからの変化を見届けてほしかった。
半ば強引に部屋のあるフロアまで上がってもらい、玄関を開けた。玄関からキッチン、そして居室。
「きったね」
その正直なところが、貴方の美徳だと私は思っている。
雑然とした部屋、照明器具(実は壊れている)の傘に被った埃、なんかが飛び散った後のある電子レンジの中、そりゃあ衝撃だったでしょう。
レインボー氏の中である程度は想像していた以上の惨状だったらしく、絶句していたのが我がことながら面白く感じてしまった。見せてしまったのだから、本気で本腰入れて汚部屋から脱却しなければならない。
闘いは、始まったばかりである。
【続く……】