妙春堂の日常ーアラフィフ婚のすゝめー

アラフィフ婚にむけての日常つれづれ日記

【連載】当たるも当たらぬも八卦よいよい①「熊本阿蘇、覚悟の旅」

タイトル長すぎ問題が発生。

汚部屋問題が一旦の区切りを迎えたことで、私とレインボーさんとの関係も一歩前進するのか?

そして、この先も書くことはレインボーさんからお許しは出るのか?

冷や冷やしつつも、新章スタートです。

 

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春先、地元酒造組合がキャンペーンを開催した。指定の酒蔵を巡り、掲示されたポスターのQRコードをスマホで読み込みスタンプをゲットする、いわゆるスタンプラリー。県内の北から南、東から西と、かなりの広範囲にわたっており、山間部に点在する酒蔵を巡るには車が欠かせなかった。

 

私とレインボー氏はコンプリートの景品である旅行券を狙い、毎週末ドライブデートを兼ねて酒蔵を巡った。ペーパードライバーの私が意味不明なナビをしてレインボー氏を混乱させたりしつつ、一緒に長い時間を過ごし、いろんな話をした。そこでお互いの価値観を知る貴重な時間を共有できたと思う。

 

趣味は合わないし、性格は陰キャと陽キャと正反対。共通しているのはお酒が好きで年齢が同じということだけ。だけど、一緒にいて楽しい。笑ってばかりで、実に有意義だった。

 

 

こうして長時間の運転という基本的にレインボー氏が一方的に苦労した甲斐あって、無事にスタンプをコンプリートした。暫くして景品の旅行券が届いた。額面は10000円。ふたり合わせて20000円。あら、どこに行きましょうか。

 

スタンプラリーのドライブも日帰り旅行と言えなくもないけれど、観光とか散策なんてしていないし、スタンプを獲得するだけで酒蔵見学をしたわけでもなく、移動時間ばかりが占めていた。だから近場でもいい。旅行らしい旅行をしたい。そう思っていた。

 

そんな気持ちが通じたのか、それとも向こうも同じことを考えていたのか、ある日、泊りがけで出掛けようとお誘いを受けた。基本的に週末休みのレインボー氏が、月曜日に有給休暇を取るので日曜日から1泊でという。わざわざ有休を取って、日付も指定して、行き先や宿泊先は任せてほしいなんて言われたら、もう期待しかない。言われるがままに旅行券を預けて、すべてを任せた。

 

 

半月後の日曜日、彼のお迎えで友人の経営する沖縄そばのお店でのランチから、私たちの旅行は始まった。

 

山の上にある老舗遊園地で大勢の家族連れがレトロ感満載のアトラクションを楽しむのを眺めたり、動物園のコーナーでチンパンジーの大きさに驚いたり、フラミンゴや孔雀の美しさに見惚れたり。老舗というだけあって、幼少期に見て大はしゃぎしていた懐かしい占いのからくり人形が、故障していてもなお展示されていることに感激したりした。

 

一通り巡り、恐怖の吊り橋を渡ったところでフラワー観覧車に乗ろうと言うレインボー氏。小さな観覧車なのですぐに終了すると思っていたけれど、意外とゆったりとした時間が流れた。

なんと言うか、緊張した。すぐ横にいるレインボー氏の顔から意識して視線をはずし、ふもとの街を見下ろしていた。そこでの会話は、普段通りの世間話。何かがおかしい。

 

やがてゴンドラは終点に。シチュエーション以外は、あまりにも普段と変わらない。

 

日も傾いてきたので、その日の宿の高原ホテルへ向かう。なんて言うか、私が期待していた旅では無いのかな。それならそれで、単純にこの旅行を楽しもう。

 

ホテルに着き、少し休んでから夕食に向かう。ビュッフェ形式のレストランで飲み放題を付けて、思い思いに料理を取ってきたりお酒をお替りしに行ったり。

 

そこで見たことのない芋焼酎を見つけ、試しに注文したところ凄く美味しい。ラベルを確認すると、地元の酒造会社の商品だと判明。昔からその酒造会社は知っているけれど、その商品はまったく知らなかった。レインボー氏もその焼酎を気に入り、食事の後半はその焼酎のソーダ割りばかり飲んでいた。

 

改めてお酒の相性は私たちにとって重要ポイントだと気づかされる。

 

 

部屋に戻ってからは、お風呂も済ませて持ち込んだお酒で飲み直し。日本酒からハイボールまで飲み散らかして、ここでもいつもの他愛ないお喋り。ちょっとした非日常を楽しめて、それはそれで素敵な時間なんだけれど、何かが物足りない。でも、それをレインボー氏に伝えることは出来ず、その夜はへべれけで就寝。

 

翌朝、レインボー氏の提案で熊本県阿蘇市のあか牛のお店に行くことに。レストランで朝食を終えると、少しまったりしてから移動時間を考慮してチェックアウト。一路阿蘇へ向かう。

 

途中のコンビニでコーヒーを買おうと言っていたレインボー氏だけど、ここで最悪の事態が起きる。コンビニが、行けども行けども現れない。自販機も無い。田んぼと畑しか無い。山道を曲がっても曲がっても景色が変わらず、コーヒーにありつけないことでなんだかレインボー氏が苛立っているように感じて、内心オロオロしてしまう私。普段が穏やかで優しい面しか見たことが無いので、動揺してしまった。

 

だいぶ車を走らせてようやく自販機を見つけると、ここまでの労力へのお礼も兼ねてボトル缶コーヒーを奢らせてもらった。

 

そこからも長い時間を移動。コーヒーを飲んで落ち着いたのか、ちらほらと現れる牧場の艶やかな牛にふたりで感激しつつ、やがて緑に囲まれた中にひっそりと佇む食堂に到着。

 

レインボー氏のお目当てのメガ盛りは限定数が出てしまっていて、お互いに普通盛り。私がちょっと食べきれなくて、残りのご飯をレインボー氏に食べてもらったのはご愛敬。

 

 

帰り道、途中ちょっと冷や冷やしたけれど、楽しい旅だったな、と思い返していると、不意にレインボー氏が改まって聞いてきた。

 

「妙春ちゃんは結婚についてどう考えてる?」と。

 

「えっ?!」と全力で聞き返してしまった。もうこのまま、そんな話なんてしないまま旅は終わるのだと思っていたから。

 

慌てレインボー氏の方を見ると、いつもの優しい表情でちらりとこちらを見た。

 

動揺しすぎて、それ以上レインボー氏の顔を見ることが出来なくて、視線をそらしながらも正直に話さなければと頭を高速回転させた。そして強く口をついて出たのがこんな言葉だった。

 

「私は、名前の問題だけなの。そこだけなの」

 

この頃になっても、私は婚姻による姓の統一に不満を持っていた。それを正直に口にしたのだが、そこでレインボー氏が言った。

 

「その気持ちは分かるし、事実婚という形も知ってる。でも、もしどちらかが怪我や病気をした時、同意書にサインは出来ないんだよ」

 

そこで自分の浅はかさを静かに強く指摘された気がして、衝撃を受けた。あぁ、この人はそこまで考えてくれていたのか。私なんかより、よっぽど私のことを思いやってくれている。

 

すぐにどうこうしたい訳ではないけれど、考えていない訳じゃない、とレインボー氏は言う。そこは知っておいてほしかった。それを伝えることがこの旅行の目的だった、とも打ち明けてくれた。

 

そうか、私以上に彼は、この旅行に並々ならぬ思いを寄せていたのか。なんだか自分が恥ずかしい。

 

「いつかタイミングが来たら。その時まで待っていてほしい」

 

もうこれ、充分ではないだろうか。レインボー氏は待っていてほしいと、まるで自分が猶予を求めているかのように言った。でもこれは、私に対しても猶予をくれたのではないだろうか。私が改姓に対して納得して、将来のその日を受け入れる為に。

 

アラフィフで将来なんて、それほど時間は残っていないかもしれない。これらは私の思い過ごしかもしれない。でも、私はそのタイミングが来るまでの時間を、慎重に過ごさなければならない。

 

覚悟を決める時が近づいている。

 

【続く……】