アラフィフ婚のすゝめ

アラフィフ婚夫婦の日常つれづれ日記

【連載】アラフィフ婚への道20「今日お嫁にいきます」(クリームまみれの花嫁)

これから和装での登場だというのに、恐ろしいサブタイトルである。

 

虹夫さんと和装へチェンジして、次はお色直しでの入場を控える。

もう躓く心配はないが、階段を降りながらの入場は大変だろうとガーデン側扉から入ることを提案されていた。

 

しかし、酷暑の令和。暑い。

既に待機の段階で汗だくの虹夫さん。会場内では私たちのプロフィールムービーが流れている。

 

すっかり貫禄のついたおじさんとおばさんでも、昔は可愛らしく凛々しい時代もあったのである。

 

横を見ると、ダラダラの汗を豪快に紋付の袖で拭う虹夫さん。あ……。

 

ギョッとするも、もう仕方がない。夏の日差しが悪い。タオルを持たせていなかった私が悪い。

開き直って、前を向く。

 

やがてさっしーさんの声と共に扉が開き、和装の私たちが登場する。BGMは筝演奏の「春よ、来い」

 

……ん? なんか会場の空気がこちらに向いていないな。何かがおかしい。不思議な違和感を覚える。

 

実はあとから妹に聞いたのだが、この時ゲストの皆さんは私たちが最初の入場と同じ中央の階段から登場すると思っていたそうだ。だから皆さん中央奥の扉に注目していて、カメラも向けていた。

それが思いがけなく右のガーデン側の扉が開いたものだから、驚いて意識が追い付かなかったらしい。

 

妹がその時に撮っていた動画にも、一斉に右を向く大勢のゲストの後ろ姿と、妹の思わず飛び出した「そっちかーっい!」という絶叫が入っていた。すまん。

 

再びキャプテン氏の先導でラウンドし、高砂へ着席。先程食べられなかった料理に、更に追加の料理が並んでいる。メインのお肉も鎮座している。これは絶対に食べる。

 

だが、ほとんど間を置かずしてウェディングケーキの入刀タイムがやって来た。うわーん、おにくー。

 

登場したケーキは四角く、リクエスト以上と思えるほどにフルーツが盛り盛り。これからこのケーキで入刀をして、ファーストバイトだ。

 

虹夫さんから私へは大型のシルバーのスプーン。そして私から虹夫さんへは、40センチくらいはありそうな子供のおもちゃのスコップ。それだけで場内爆笑。

 

お互いに強引に無理のある量をすくい、食べさせる。楽しいけれど苦しい。だけどとても嬉しい。

因みにこの時のBGMはブルーノマーズの「Just The Way You Are」

 

お互いに遠慮なく大きくケーキを掬い上げ、正々堂々と差し出されるケーキを一口で食べ……ようと努力はしたが、土台無理な話。

何度かに分けながら、なんとか口に頬張った。

 

続いては、本来ならばケーキをゲストの皆さんに切り分けてサーブするのだけど、その前にひとつサプライズ。

今年の元日に入籍をして、この日の新婦側の受付をしてくれたご夫婦にも、サプライズバイトをしていただくことになっていた。

このお二人は、入籍だけはしたものの、お披露目の会すら無い超地味婚のままだった。

 

以前からご夫婦揃って私と虹夫さんを応援してくれており、その感謝を込めてお返しをしたかった。

 

さっしーさんの呼びかけに、まず旦那さんが立ち上がる。友人嫁、突然のことにその場で泣きじゃくる。

高砂に上がる頃には嫁、大号泣。それぞれどのスプーンにするかといくつか候補を見せると、旦那さん真っ先におもちゃのスコップ。それで女性に食べさせるのは無茶だ。

 

慌てて友人嫁が手にしていた金色の大きなスプーンと旦那さんのスコップを交換させ、まずは友人嫁がスコップにほんのちょっぴりクリームを掬った。可愛いけどそれじゃあ面白くないわ、友よ。

 

一方で、旦那さんはスプーンにモリモリとケーキを掬う。この対比が、このご夫婦の楽しくて素敵なところである。

 

ボロボロ涙をこぼしながら、必死にケーキを頬張る嫁。もはや限界。

かたやほんのちょっぴりのクリームを口に入れた旦那さん、突然むせて嫁と私にクリームを噴射。

 

ぎゃあーーー。

 

ご夫婦が所属する飲み助テーブルのメンバーからは大爆笑。私ももう笑しかない。

 

クリームまみれの赤い色打掛、汗ぐっしょりの紋付。もう、あかん。

セントクレアヒルズさん、衣装部さん、ごめんなさい。

 

この後も友人嫁は顔を真っ赤にさせて長いこと号泣し続けていた。

余計なことしやがってと怒られているのかと一瞬不安になったが、シンプルにサプライズにしてやられた悔しさと嬉しさに泣いていただけらしかった。ホッとした。

 

彼女たちにも、結婚の祝福を受けてほしかったので、このサプライズは成功ということで良いかと思う。

 

 

次回、花嫁の手紙で本領発揮。親族唖然のもぐもぐタイム編へ続く。

 

 

【連載】アラフィフ婚への道18「今日お嫁にいきます」(ブーケトスの死闘)

もはやサブタイトルの方向性が分からなくなっているが、本日も結婚式の様子を綴りたいと思う。

 

隠し部屋の窓から、外の大階段の一部が見える。ゲストの皆さんがフラワーシャワーの準備をして待機してくれている。暑そうだ。

年々暑さを増している日本。今日が天候に恵まれたのは良かったのだが、恵まれ過ぎである。

 

大階段、名の通り長いんだよな。これ全部下まで自力で歩いて降りて行かないといけないんだよな。

 

ドレスの裾踏んで躓いて、下まで落ちていく姿しか思い浮かばない……。

 

いやいや、虹夫さんを巻き込む訳にはいかない。

なにがなんでも一緒に無事に降りて行かなくては。

 

扉の前でスタンバイ。虹夫さんリクエストのBGM、ゲーム『ファイナルファンタジーⅣ』のオープニング曲が流れる。荘厳で勇ましい曲での登場だ。今日もう何度目だという緊張が走る。

 

扉が開き、眩しい太陽のもと、沢山の笑顔に迎えられる。幸せな瞬間ではあるが、心はびくびく。

 

たぶんこれまでの数多くのご夫婦の中でもかなりゆっくりペースで階段を降りていたのではないだろうか。ここでも虹夫さんとふたりでドレスとつまみ上げての歩みとなった。

 

が、後からスタッフの方から「ドレスの裾は持ち上げ過ぎないように」とご注意を受ける。

これは披露宴のエンドロールで見て分かるのだが、ローアングルで撮影していたのでドレスを持ち上げ過ぎたことで私の太い太いふくらはぎが丸見えになっていたのだ。

これは、かなり恥ずかしい。

 

天空の森セントクレアヒルズは丘の上にあるのだけれど、そんな状態をものともしない令和の夏。

ゲストも私たちも汗だく。降りそそがれるはずのフラワーシャワーも、皆さんの手の汗で花びらがくっついて高く舞わない事態に。

中にはくっついて塊状態になった花びらを顔面に向かって投げつけてくる強者もあり。

 

長く時間をかけながらも階段を最後のステップまで降りきり、達成感を覚える間もなく次はブーケトスである。

ブーケトス用に、式で使用したのとは一回り程小さなブーケを用意して頂いている。

さっしーさんの案内で、独身女性が一ヶ所に集められた。

大好きな姪っ子ちゃんたちには、事前に「是非ブーケトスに参加してね」と呼びかけていたが「え?」とか「なんで?」とか、「後ろの方で見とく」なんてことしか返してくれなかった。悲しい。

 

まぁ確かに私のブーケとか間違いなく晩婚になりそうだけど、でも確実に素敵な人と巡り会えるのだぞ。

 

こうなると、私たちと年齢の近いバツあり独身女性の闘志が背後から強く感じられた。

「妙春ちゃん! 右!」「いいや、左で!」などと指示が入り、まさに圧が強い。

 

私は正面に、ふざけてるのかというくらいに眩しい太陽を望み、腰を虹夫さんに支えてもらう。

テイラースウィフトの「ME」が流れる中、私も虹夫さんも汗だくだ。

 

私は腕力に自信がない。放り投げて誰の手許にも届かずに地面に落ちてしまうことのないようにとだけひたすらに念じて、思いっきりブーケを高く放り投げた。

 

わぁーっという悲鳴のような歓声が上がり、拍手が起きた。良かった、誰かの手にブーケは渡ったのだ。だが、誰の手に?

 

虹夫さんと同時に、意を決して振り返る。

そこにはブーケをしっかりと掴み、驚きつつ歓喜で破顔した虹夫さんのお友達。

 

私でいいの? と興奮して叫んでいたけれど、勿論いいですとも! 是非バトンタッチでお友達さんにも幸せになって頂きたい。

その幸せが、今回のように結婚という形は限らないけれど。

 

そのお友達さんと記念の撮影をして、ゲストの皆さんは披露宴会場へ。私たちは化粧直しへと別行動。

 

その時、ゲストの中から女性の声が上がった。

 

「虹夫さん! ブーケあと2つ増やしよ!」

 

私と虹夫さんの仲を最大に後押ししてくれた方だった。この日のブーケトスに意欲を燃やしていたひとりらしい。

 

後から複数のお友達が撮影してくれた動画を観てみると、やや斜に見守る姪っ子ちゃん3人に、私の後ろに陣取る3人の友人たち。その前には小学2年生の虹夫さんの親族ちゃん。

他にも3人ほど虹夫さんのご親族がいた様子。

 

私の投げたブーケは思いのほか高く遠くへ飛んでいって、最後部に陣取っていた女性がピョンと飛んだ両手にすっぽりと収まっていた。

 

その時の、ブーケを取れなかった女性陣の悔しそうでありながら最高の笑顔を見ると、この結婚式、やって良かったのかな、などと感じるのだった。

 

さすがにブーケの数は増やせないけれど。

 

そこは今回の獲得者に新たなブーケを投げて頂ければ……。

あ、これはプレッシャーになるから言ってはいけないな。

 

 

次回、もたつき入場からの披露宴前。紫のちゃんちゃんこ編へ続く。

 

【連載】アラフィフ婚への道19「今日お嫁にいきます」(紫のちゃんちゃんこ)

披露宴用に髪飾りをティアラとベールから、小振りの胡蝶蘭へと変更。

再び長い階段を降りる形での披露宴入場に備える私と虹夫さん。

 

会場では友人からプレゼントされたオープニングムービーが氣志團の結婚闘魂行進曲「マブダチ」のBGMで流れる。

 

扉が開き、ブルーノマーズの「MARRY YOU」が流れる中を、キャプテン氏の先導を受けて厳かに躓きながらの入場(それはもういい)

因みにこのBGMはノリが軽いという意見もあるらしいが、それが私には素敵だと感じたのでお願いした。私のように50手前までグズグズしているのもどうかと思うのだ。

 

乾杯は沖縄そばの大将の音頭。その瞬間にディズニー映画「アラジン」の「フレンドライクミー」が流れ、いよいよ酒飲みの友人や親族の我慢が解放される。この曲は結婚式に合うのか? とも思ったが、友人たちとこれから楽しく飲もうという雰囲気にも良いだろうと考えると間違いではなかったと思う。

 

そして皆さん、まぁ飲まれる飲まれる。

ウェルカムスペースの希少酒を開けてくれとか、高砂横に鎮座する菰樽のお酒はいつ飲めるのかとか。わかってはいたけれど、ちょっと落ち着こうか。

 

暫くの間をおいて、改めて葉加瀬太郎の演奏曲「万讃歌」をBGMに酒飲み待望の鏡開き。

 

ウェディングドレスでの鏡開きは珍しいとは思うが、それもまた面白いだろう。アラフィフの挙式披露宴がもう既に普通じゃないのだから、もはやなんでもありだ。

 

樽酒の中身は八鹿酒造の笑門(しょうもん)。地元のスーパーならどこででも入手可能な一般的なお酒で、それが寧ろ私はこれまで手を伸ばすことはなかった。

わざわざお金を出すなら、珍しいとか限定とかを買ってしまう私。それを今回はかなり反省した。

 

樽や桝から滲み出る木の風味も手伝っているかもしれないが、美味しいじゃないか笑門。これはリピである。

八鹿酒造の専務さんも言っていた。うちで一番うまいのは笑門だ、と。

 

その専務さんからのご厚意で、なんと今回は桝のプレゼント付き。

その桝にはブーケの追加を要求した友人の会社に依頼して、私と虹夫さんの花個紋をレーザーで焼いてもらっている。

 

こうして見なくても、本当にこの挙式と披露宴は多くの人の助けと優しさを受けて成り立っている。

 

共通の友人のスピーチもあり、あっという間にお色直しの時間が来た。

え、まだこれ食べたい、というお料理も我慢して席を立つ。

 

結婚式というのは、特に新婦はまともに食事など出来ないと聞いていた。特に姉からは披露宴の最中は食べる余裕はないし、披露宴後にワンプレートで用意してもらっていても落ち着いて全部食べるなんて出来なかったと聞いていた。

 

それなら披露宴の最中に頑張って食べようぜ! が虹夫さんとのこの日の目標だった。

この色気のなさも、アラフィフ婚ならではかもしれない。

 

お色直しはまずは私から。エスコートは事前に母に頼んでいた。

 

しかし、司会のさっしーさんから名前を呼ばれた母、見ているこちらが驚くほどキョロキョロキョロキョロ。貴女、話しておいたでしょうが、まぁどうせ忘れるとは思っていたけども。

 

高砂前に来た母に、更に司会からアナウンスが続く。

 

この10日前に、母は77歳の喜寿になっていた。間の悪いことに当日は持病の影響で入院していたが、以前からこの披露宴でサプライズで喜寿祝いをしようと兄弟で話をしていた。

 

プランナーさんもさっしーさんもその案を後押ししてくれて、兄の準備した紫のちゃんちゃんこと帽子を母に着せる。

 

エスコートさえ忘れていた母だ。驚いてはいたが、嬉しそうに笑ってくれた。

 

私と手を繋いで、どっちがエスコートしてるのだか分からなくなりながらもアリアナグランデの「Lovin` it」で中座した。

母の手はすっかり肌に張りがなかったし、小さくなっていた。お腹だけは出てるのに……。

 

しまった、人の体型のことは言えないんだった。

 

私は知らなかったが、この時私と母の後ろでは、姉と妹が凄い勢いでドレスの裾をさばいてくれていたらしい。Aラインのトレーンの長いデザインだったので、それでなくてもさばくの大変だったのでとても助かった。

 

ロビーでは父の遺影とも一緒に記念撮影。

 

その後の会場では虹夫さんもお母さまのエスコートで中座したのだけれど、そちらは最初からサプライズだった。BGMは氷川きよしの「碧し」

奇しくもどちらも母親にもサプライズをしかける形での中座となった。

 

 

次回、和装チェンジのゲストどっきり。クリームまみれの花嫁編へと続く。

 

【連載】アラフィフ婚への道17「今日お嫁にいきます」(絶望と爆笑の人前挙式)

無事に婚姻届を受理され、帰宅。

午後になり、兄の運転で母と式場入りする。

 

ウェルカムスペースは前日に確認しているので、控室で少し母と話す。

別段、「お世話になりました」的な会話もなく時間になり、案内されるままにお支度に入る。

 

ヘアメイクをしてもらいながら妹たちに控室やロビーの様子を尋ねてみると、予想外に早い時間から皆さんお集まりくださっている様子。

 

展示している珍しいお酒の瓶に、飲み仲間が群がっていたらしいのは予想済み。殆どのお酒は空き瓶だけれど、一部閉じてしまった酒蔵の未開栓の商品も記念に並べていたので、のちの披露宴で「それも開けようよ!」という仲間の興奮を収めるのが大変だった。

 

やがてベールダウンやリングボーイのリハーサルが終わったということで私と虹夫さんとの大聖堂でのファーストミート。もう散々衣装合わせや前撮りでお互いを見ているので新鮮さは無く、見つめ合ったまま言葉に困るふたり。

この辺りに、アラフィフの初々しさを失った悲哀を感じる。

 

一旦大聖堂前にある隠し部屋で待機し、入れ替わるように親族紹介が行われる。

 

続いてゲストの皆さまが大聖堂に案内され、いよいよ扉の前でスタンバイ。まずは虹夫さんがひとりで入場。暖かい拍手に迎えられて、ゆっくりと確実に歩いて行く虹夫さん。扉の隙間からその様子を見守りつつ、自分の入場が不安でならない。

 

だって、練習まったく上手くいってないのだもの。

 

所定の位置についた虹夫さんに続き、私が入場。

一歩、二歩、三歩目に案の定ドレスの裾を踏む。なんとか入ってすぐの母のもとへ着くと、ベールダウンを受ける。気が急いていて、母の助けを受ける前に頭を起こしてしまう。

 

そして、ここからが地獄だった。

決して長くはないバージンロードが永遠に続く茨の道に感じるほど、果てしなく感じた。

裾が! ドレスの裾が私の歩みを妨げてくる!

 

もはや一歩ごとに躓く有り様。途中からかなり裾を持ち上げて歩くものの、歩くことに集中するあまり立ち止まる位置を取り過ぎて慌てて歩を止める。

 

虹夫さんの迎えを受けるのだが、腕を組む手順がすっ飛ぶ虹夫さん。もうわちゃわちゃである。

 

なんとか壇上に上がり、司会のさっしーさんの進行でどうにかこうにか式は進む。

私の考えた誓約の言葉を述べ、指輪の交換。

 

ここでリングボーイの私の甥が登場。

ゲストの皆さんはどんな可愛らしい男の子が出てくるのかと、カメラを低いアングルで構える。

扉が開くと、そこにいるのは19歳の若者。結構ないい大人が現れて困惑が広がる大聖堂。

 

甥はなにか面白いことをしてくれるかと期待していたが、慎重にしっかりをこちらに向かって歩みを進め、丁寧にリングピローを虹夫さんに手渡した。

なんだよ、ターンのひとつも決めてくれるかと思ったのに。という拍子抜けはあったけれど、あの生意気盛りだった男の子が、こんなにも紳士的に成長していて内心感動もしていた。

 

さて、事前のリハーサルでは指輪をうまく持てずにオロオロした私だけれど、本番ではなんとか様になったと思う。因みにその指輪はパソコンを叩いている今も着けているけれど、なんだかまだ慣れなくてムズムズ感がある。

 

ベールアップをして、遂に近いのキスまできた。

 

こんなおっさんとおばさんのキスとか見て嬉しいか? と拒否反応があったものの、虹夫さんは当たり前にするものだと思っていたそうなので覚悟を決めた私。

事前に新婦の顔がゲストに見えやすいように、首の角度などをアドバイスされいた虹夫さんだけれど、なんとそこでもすっ飛んだらしく、右腕を高く掲げて私の頭を掴みにかかった。

 

えぇ? なに? なんで頭を押さえにくるの?

驚いて激しく動揺する私。私をゲストによく見えるように、私の頭の位置を調整しようとする虹夫さん。

「頭? え、頭?」と思わず逃げようと大きな手から頭をかわす私。

爆笑するゲスト。

 

もうどうしたらいいのか考えるのを諦めた虹夫さんは、最終的に右手で私の顔をロックしてブチュー。

 

なんじゃこの誓いのキスは! 完全にツボにはまった私。キスが終わった後も笑いが堪え切れず、ゲストに向かって恥ずかしげもなく声を上げて爆笑。それ見てゲストも更に爆笑。

 

ゲストに指輪やサインをした誓約書を披露して、承認の拍手を受け、さっしーさんの結婚成立宣言を受けて式は終了。

 

そして、退場という地獄の再来。

散々また躓きつつ、でも今度は虹夫さんにもさりげなくドレスをつまんで持ち上げてもらいながら、なんとか最後のお辞儀まで終えることが出来たのだった。

長かった……。

 

 

次回、フラワーシャワーを受けながらの階段落ちという恐怖と戦う、ブーケトスの死闘編へと続く。

 

【連載】アラフィフ婚への道16「今日お嫁にいきます」(プロローグ)

週末に市役所支所の時間外受付で婚姻届を出した。

そして週が明け、いよいよ今日は挙式披露宴の日だ。

 

昼過ぎに兄が母と私を式場まで送ってくれるので、その迎えが来るまではゆっくり休んでおこうと思っていた。

10時過ぎ、思いがけない番号から電話がかかる。市役所の支所である。

 

あー……、やっちまった。婚姻届に不備があったんだな。

 

がっかりしつつも話を聞いてみると、私たちの記入箇所ではなく、保証人の「本籍」に不備があるとのこと。

 

婚姻するふたりだけではなく、保証人にも本籍を書く欄はあるのだけど、記入をしてもらい際に細かいところまで覚えていないという。ここは本来書いてもらう側の私たちが、本籍も必要なので確認しておいてください、なりの事前のお願いをしておくべきだった。

猛省。

 

その場でググってみたところ、あるサイトに「保証人の本籍が分からなければ、県名市区町村名までで良い」と記載がされていたので、それに従って番地などは省略していた。

 

それが問題で、本来は保証人欄の本籍も番地まできっちりと記入が必要なのだという。

 

「どこかのサイトで云々かんぬん」と説明したところ、「あ~、サイトには嘘の記載が多いんですよ。こういう場合は各自治体の公式サイトを確認することをお薦めします」と職員さん。

なんてことだ。

 

さぁ、ここからが大変。急いで虹夫さんに連絡。どう動くかを話し合う。

私はすぐにでもどうにかしなければと気が急いているのだけど、虹夫さんは「すぐにどうにか出来ることじゃねーやろ。明日以降かな」と。

えぇー、そんなのやだ。せっかくなら日の佳い今日に処理をしてほしいです。

 

ここでまた意見の相違。

 

虹夫さんが折れてくれて、それぞれで保証人へ連絡をして改めて教えてもらうことにした。

まず私から新婦側として記入をしてくれた方へと電話をする。月曜日の朝から本当に迷惑だったとは思うけれど、さいわい先方はお休みで連絡が付いた。

更に幸運にも、ちょうど最近本籍を書き出しておいていたらしく、そのメモを見つけてすぐに教えてもらえた。

 

何度もお礼を言って電話を切る。

次は虹夫さんの方なのだけど、そちらの保証人様は飲食店のオーナー。朝から仕込みでてんてこ舞い。ようやく連絡がついても「いま寿司握ってるので、すぐには無理です」と。

昼のお迎えの時間までになんとかなるかどうか……。

 

間に合わなければ、それはもう仕方がない。運を天に任せる。

この時点で、私は既に支所に向かった。徒歩15分程度のところだ。

夏とはいえ、午前とは思えない暑さの中、支所のロビーで今か今かと知らせを待っていた。

最初の連絡から約1時間後、保証人様がお店の近くのコンビニで住民票を取り寄せたとかで詳細を送ってくださった。

 

よし!

 

早速窓口で今朝電話をもらった者ですと伝え、担当者の方から先日提出した婚姻届を一度返していただいた。そこで私の代筆にはなるけれど保証人欄を完全に埋め、改めて内容を確認してもらう。

 

「あの、一点確認なのですが……」と職員さんが言うには、同居を始めた日または挙式をした日に『令和6年7月』とあるが、ふたりの住所はまだ別々。挙式はされたんでしょうか、と。

 

「今日です」

「え! 今日?」

驚く職員さん。夕方なんで、昼には式場入りなんです、と話すと「それは急がないとですね」と。

 

せっかくだから届け出の日を今日の日付に変更出来ないか聞いてみたけれど、そこは変更が出来ないとのこと。残念。

 

だけど、こうして正式に私と虹夫さんは夫婦となり、新しい戸籍が作られることになりました。

 

忙しい中、対応してくださったオーナーさんには本当に頭が下がる。私の我が儘に振り回された人がここにも……。

 

 

本日の教訓。

婚姻届の本籍は保証人も記入が必要。

その本籍は番地枝番までの詳細が必要。

婚姻届の提出日は変更出来ない。

行政手続きの不明な点は、公式サイトで確認すること。

 

 

次回、絶望と爆笑の人前挙式編へ続く。

 

【連載】アラフィフ婚への道15「直前にまで控えて」

何かの流れで、影木栄貴先生の著書『50婚 影木、おひとり様やめるってよ』を知る。

 

影木先生と言えば歌手のDAIGOさんの姉でBL漫画の作家さんだということは知っていた。

申し訳ないことに作品は読んだことはないのだけど。

 

と言うのも、塩沢兼人氏が亡くなって以降24年、私は新作のアニメや漫画からはすっかり縁遠くなってしまった。BLが当時「やおい」と言われていたのも、今はもうずっと遠い昔の話。

 

けれど、テーマが熟年の域に達しての結婚ならば話は別。

私自身が長く『アラフィフ婚』をテーマにこうしてブログを書いている。

 

これは是非いろんな意味で勉強をさせて頂きたいと、早速書店の在庫検索をかける。今年の2月頃に発売されたばかりなので、さいわいまだ在庫はあるようだ。

『ライトエッセイ』という聞きなれないジャンルに分類にされているのが気になったが、『ロードス島戦記』だって当時ライトノベルなんて言われてなかったしな。

 

まさか、『吸血鬼ハンターD』や『アルスラーン戦記』も今でいうライトノベルなのだろうか。

なんか気になるけど、それはまぁいつか調べよう。

 

さて、早速お目当ての書籍を購入。

読み始めて納得。これは確かに読みやすく「ライト」という表現がぴったりだ。

 

この数年特に読書から遠ざかっていた私は、漫画ですら読むのが億劫になって積読が増えた。大好きな永久保貴一先生の漫画も、北大路公子先生のエッセイも後回し後回し。

もうね、活字を追うのがキツイ。疲れる。

 

まだ40代半ばだというのに。これで還暦になる頃には私は何を趣味に生きているんだか。

 

それが影木先生のライトエッセイはとても軽快な文体に構成、楽しくさくさくページをめくる手が進む。語弊を生むようで嫌だが、確かに重厚な文学作品ではない。

だが、自身の気持ちを軽やかに明るくざっくばらんに公開するのに、こんなに適した表現方法は無いだろう。

 

普段は漫画を描いておられる訳だが、こうして文章だけでも自己表現が出来るなんて、なんて多才な方だろう。羨ましい。

 

 

考えてみれば私も幼少期、性についてはかなりの強迫観念を抱いていた。

テレビや雑誌のこうしたものは見ちゃいけません! に、私は正直に従った。私はそういった世界に関わってはいけないのだと思っていた。素直だったのだ。

 

影木先生と異なるのは、「性」は私とは無縁の世界だと思って興味も持たなかった点だろう。

 

それもすべて虹夫さんに出会って世界が180度変わってしまったわけなのだけど。

 

 

そんな虹夫さんとの結婚式をいよいよ明日に控え、今日はウェルカムスペースの飾りつけを確認してきた。

昨日は最終フィッティングやドレスを着ての歩き方(ウェディングステップ)の練習をしてきた。ドレスの裾踏みまくりで、不安しかない。

 

そして、その日の午後、市の支所の時間外受付で婚姻届を提出してきた。

 

実にあっさりと書いているが、ここまではそれなりに長かった。

書き損じがあってはならないと、何日もかけて複数枚の婚姻届を集めた日々。

念の為にゼクシィの付録である婚姻届もストックした。

 

いつもお世話になっているダイニングバーのオーナーとバイトさんに保証人になってもらい、その複数枚すべてに署名をしてもらった。

これはなかなか迷惑だったのではないかと後から思ったが、どこかのサイトに書いていたのだ。提出時に不備が見つかったらすぐに新たに書き直せるように、保証人のサインはあらかじめ何枚か書いておいてもらうとよいでしょう、と。

 

そして先日の、いつ提出するか問題。

提出日を結婚記念日にしたい私と、時間外でも出したその日が入籍日だろうという虹夫さんで一悶着した、あれ。

 

結局、提出日よりも一緒に提出したいというお互いの気持ちを擦り合わせて、その結果が昨日の提出となったのだった。

 

 

一夜明け、虹夫さんと同じ姓になった私。

行政や金融関係の改正手続きはもう暫く先だけれど、明日市役所が開庁して処理が済めば、改めて私はそれまでの戸籍を離れる。

 

出来るなら早く金融機関行脚を含めて手続きを終えてしまいたいのだけど、虹夫さんは「お盆で良くね?」と。

確かにまとまった休みではあるけど、こういうのって1週間程度の間に完了させておくべきなんじゃないかな?

 

こういう煩わしさを考えると、やはり選択的夫婦別姓の法案は早々に通すべきだと思う。

 

実は先程親しくさせて頂いてる酒造会社の社長さんからお花が届いた。

私の鬱病が本当にピークで苦しんでいた頃に出会った方で、その突き抜けた明るさと前向きさに強く励まされた。

朝ドラの主人公に取り上げてほしいくらいだと秘かに憧れているその社長からの思いがけないプレゼントに、感激して打ち震える。

 

受け取りのサインをするときに、勢いで旧姓で書き殴って一瞬焦ったけれど、旧姓あてに届いたのだからいいのか、と思い直した。

当分、こういった失敗はしてしまうだろう。こればかりは慣れだ。

 

ところで、結婚記念日は挙式日と入籍日、自由に選んで良いらしい。

つまり、明日は私たちの結婚記念日だ。

 

【連載】アラフィフ婚への道14「ちょっと自慢したいんだ」

仕事の移動中、社長からご自身の結婚の際に打ち合わせで奥様と喧嘩になったという話を聞いた。

そして、その結婚は長くは続かなかったらしい。

 

これは以前にもこのブログでも少し触れたけれど、よく聞くエピドートだ。

結婚式の準備中に不協和音が生じて、そこからこじれて結婚生活が長く続かなかった、なんて話。

 

離婚したカップルの中でも比較的多いと感じる原因のひとつだが、翻って私と虹夫さんはというと、全然そんなことが無い。

 

虹夫さんは殆どの私の希望は叶えてくれるし、たまに暴走にして無茶を言っても理路整然を嗜めてくれて、私も素直に聞き入れることが出来る。

 

準備段階での亀裂など、この先の長い人生を共に歩むことを考えたら私はもうその時点で「やめて正解」だと感じてしまう。違和感は、大抵は間違っていないものだ。

 

 

そんな私と虹夫さんはお友達からも職場の同僚からも『仲の良いカップル』と認識して頂いているが、今日はちょっとだけ、そうとは言えない状況になった。

 

それは、入籍の日をいつにするか問題。

 

私は結婚式の日に婚姻届を提出して、その日を結婚記念日にしたかった。

 

けれど、その日は週明け。

夕方の挙式のためには昼には会場入りしなければいけない。午前中に届け出を出したいところだが、この時点で私たちはまだ別居状態。一緒に市役所へ届けを出すには時間がない。

 

「通勤ラッシュの中を市役所にとか行かれん。勘弁して」と虹夫さん。

 

そこで私の考えとしては、週末の間に時間外提出をするというもの。

そうすれば、開庁時間の週明けに受理されて結婚記念日になるのではないか、と。

 

だが、虹夫さんは異を唱える。私にはそれが理解できない。

暫く同じような問答が続いた後、虹夫さんが言った。

 

「じゃあ元日に婚姻届出した人は?」と。

 

あれ? そういえば、今年の元日にお友達が入籍したよな。

時間外しか受け付けていないのに、その日が入籍日になるの?

 

飲み込みの悪い私は混乱し、ここでようやく違和感を覚えてスマホをポチポチ。

 

そこで分かったのは、時間外提出はその時点ではあくまでも受付どまりだけれど、届け出の内容に不備がなければ提出した日に受理した扱いになるのだそう。

 

て、ことは、私の希望の日より以前に時間外提出をして、記入内容に不備がなければ提出した日が入籍日になるということ。

え、私の希望する日ではなくなるの?

 

「だから、ずっとそれ言ってるんだけど」

 

と虹夫さんに言われて激しくショボーン。落ち込んでしまった。

 

自分の思惑が外れていたことも、虹夫さんの話を理解出来ていなかった自分にも嫌気がさした。

 

 

どうしても挙式日に届け出を出したいのであれば、事前に準備した婚姻届を私か虹夫さん、どちらかが近所の市役所の支所に提出すればよい。幸いにもお互い近所にそれぞれの地域の支所がある。

 

だが、婚姻届は一緒に出したい。

そこはお互いに意思が一致している。

 

ひとりで出したい日に出しに行くか、希望していた日ではなくてもふたりで一緒に提出しに行くか。

 

決まってるじゃないか。一緒に行くんだよ。

 

挙式日は私の我が儘を押し通した。

だったら、入籍日は虹夫さんの言葉に従おう。

 

これからの人生を一緒に歩むスタートで、食い違いは起こしたくない。

 

私と虹夫さんはもうアラフィフなので、お若いカップルに比べるとこの先一緒に居られる時間が長

いとは言い難い。末永くなどないのだ。

 

だからこそ、限られた残りの時間を一緒に穏やかに過ごしていきたいと考えている。

喧嘩なんてしている時間が勿体ない。

 

こんな心の境地で結婚が出来ること、本当にアラフィフ婚って悪くないぞ。

 

そこは自慢してもいいかな、と思っている。